【諏訪の白狐】 諏訪の民話や伝説

諏訪の白キツネ

対岸からの白狐稲荷神社


むかし諏訪市四賀の上諏訪によった外れの森に、キツネが住んでいました。この森を通って上諏訪へ行く人々はよく化かされて、大変ひどい目にあったそうです。


ある時、おいしいあんころ餅を上諏訪の親戚に届けようと、森にさしかかると、どこからともなく旅人が現れて「上諏訪へ行く道を教えてください。」と言うのです。


「ちょうど上諏訪へ行くところだ。一緒に行くじゃ」と、旅人を連れて行きました。


しばらくついて来ましたが、いつの間にかどこかに消えてしましました。


すると、いままで背負っていたあんころ餅が急に重くなったのです。


おかしなこともあるものだと、急いで親戚の家に行って袋から出してみると、あんころ餅が石ころにすり替わっているのでした。


まんまとキツネにやられたのです。


このように、しょっちゅうキツネに化かされるので、皆はすっかり困りました。


そんな時、車引きのゴンさんが人間様にいたずらをするなんて、ひとつ懲らしめてやろうと立ち上がりました。


ある晩、ゴンさんは車の上に石臼をひとつどかっと乗せて、ゴロゴロ引きながら村の外れの森に来ました。


すると、小娘が泣きながらゴンさんに近づいて来ました。


「おじさん、おねがいです。おかあさんが病気で上諏訪まで薬を取りに行くところです。車に乗せて上諏訪まで連れて行ってくれませんか。」と哀れそうに頼みました。


「そりゃいけねえなぁ・・・。おれもちょうど上諏訪へ行くところで、荷物は少くねぇし、さあ、さあ、乗ってくりょう。」ゴンさんは、気持ちよく答えました。


心の中では、「来やがったな、うまくとっちめてやるぞ。」と思いながら小娘を石臼の上に座らせました。


そして、むりに石ころの上や、窪んだ所をガタゴト引きました。


車はそのたびに傾くので、小娘も右に左に揺れて、今にも落っこちそうになりました。


「おじさん、落ちそうです。」小娘は、たまらなくなって声を出しました。


「ほうずら、なんしろ上諏訪へ行く道は悪いでな。大事な娘さんを落としちゃいけねえ、ちょっと悪いが、石臼に縛るか・・・。ちっとの間だでなあ。」


ゴンさんは、小娘の返事なんか待たずに、するすると手際よく小娘を石臼に縛り付けました。


これは、はじめからゴンさんの計画でした。着物の下からチラッとしっぽの先が覗いていました。


万事うまくいきました。ゴンさんは思いっきりの速さで車を飛ばしました。


上諏訪の灯が近づいてきました。車の上の小娘は、あっちこっちとしきりに動いています。


ゴンさんは何食わぬ顔をして、なお一層速度を上げました。小娘は必死になってひもを解こうとするのですが、ぎゅっと結んだひもはちっとも解けません。


そのうちに、明るい町の中へ入りました。


とうとうたまらなくなってキャンキャンと鋭い声で鳴きました。見事に化けの皮がはがれ、いままで小娘だったのに、口が耳のところまでわれ、丸々太った白キツネの正体を現しました。


「よくも今まで人様をを化かしやがったな。」ゴンさんは、太い棒を振り上げて、白キツネめがけて振り下ろそうとしました。


「どうかお許しください。今まで大変悪いことをしました。これからはけっしてしませんから。」白キツネは哀れな声で、何べんも頭を下げました。


よく見ると、おなかに赤ちゃんがあるようです。もともと気持ちのやさしいゴンさんは、振り上げた棒を下して、ひもを解いてやりました。


それからあとは、もうキツネは出なくなりました。


この白キツネが住んでいたところを白狐(諏訪市四賀白狐)とよんでいます。


出典 諏訪のでんせつ 竹村良信 著

白狐稲荷神社

信州稲荷之総社正一位白狐稲荷大明神


白狐稲荷神社は、諏訪郡諸村並旧蹟年代記に、「白狐島正一位稲荷大明神、一国一社信州稲荷の惣社也。」と記されている。


祭神は倉稲魂神(うかのみたまのかみ)(五穀を司る神)で、京都伏見の稲荷神社を勧請したものであると言い伝えられている。


口碑によれば、その当時、白狐島付近は葦原なりしため、白狐生み居り作物を荒らしたる。それを除かんとして稲荷社を勧請せしとかと言われている。
その後、白狐御用水水番二軒にて神社の世話をなしいたるが、現在は上桑原区にて世話をしいる。


白狐稲荷神社の看板


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