「聖地巡礼」~宮崎駿監督作品のジブリを歩く~

「聖地巡礼」~宮崎駿監督作品のジブリを歩く~

 

長野県富士見町とのゆかり

二〇〇二年に井戸尻考古館において藤内遺跡出土品重要文化財指定記念展「甦る高原の縄文王国」の開催期間中に、長野県富士見町にゆかりがある宮崎駿氏が「富士見高原はおもしろい」と題して講演を行っている。

 

宮崎氏は四十代半ばころより、長野県富士見町にちょっと興味をもって歩きはじめたようである。

 

その興味が半端なく、「富士見町史」を読み込み、町民よりも詳しく富士見町のことが分る人になってしまったようである。

 

また、井戸尻考古館のきっかけになる発掘を指導した「藤森栄一」が書いた「縄文の世界」を二十代のころ読み、影響を受けたようである。

 

講演録集は「甦る高原の縄文王国」として刊行されている。

 

本文の中に「ぼくはある映画で巨大なイノシシに乙事(おっこと)主という名前を勝手につけちゃいましたけど、別にあそこにイノシシがいるからではないんです。」の一文がある。

 

長野県富士見町の地名を改めて見てみると、キャラクターのモデルになったのではと思わせる地名がいくつもある。

 

ジブリファンには宝さがしみたいな町なのである。

 

乙事主(おっことぬし)

乙事の道路標識

 

乙事主は、映画「もののけ姫」のキャラクターで、山の神であるイノシシの長老である。

 

仲間だったナゴの守が殺されたことに怒るイノシシたちとともに鎮西(九州)からやって来る。

 

エボシ御前たちとの戦に敗れ、タタリ神になりかけるものの、シシ神に触れて命を失う

 

エボシ御前(えぼしごぜん)

烏帽子の道路標識

 

エボシ御前は、映画「もののけ姫」の登場人物で、鉄を作るタタラ場のリーダーである。

 

森を切り開き、砂鉄から鉄を作るタタラ場を仕切っている。

 

木を切り倒すために森の神々や動物から恨まれている一方で、世間から見捨てられた病者や女たちをタタラ場で働かせて助け、それらの人々から慕われている。

 

甲六(こうろく)

甲六橋の表示板

 

甲六は、映画「もののけ姫」の登場人物で、タタラ場で働くトキの夫である。

 

牛飼いが仕事で、エボシ御前の一行が峠で襲われた時に谷に落ち、アシタカに助けられる。

 

妻のトキには大声でどやされるものの、愛されてもいる。

 

ジコ坊(じこぼう)

ジコ坊は、映画「もののけ姫」の登場人物で、師匠連と呼ばれる組織の一員である。

 

背が低く、小太りの中年の男で、高下駄を履き、僧のような格好をしている。

 

師匠連の意向もあり、天朝(帝)からシシ神退治の許可を得て、エボシ御前にシシ神退治をそそのかす。

 

 

イグチ科のきのこの総称を諏訪地方では、時候坊(ジコボウ)と言う。

 

時候坊(ジコボウ)と呼ばれるハナイグチは、ぬめりのある独特の風味で、人気のキノコである。

 

時候坊という名の通り、季節を知らせてくれるキノコとして呼ばれている。

 

デイダラボッチ

シシ神は、映画「もののけ姫」のキャラクターで、生命与奪の能力を持つ森の神である。

 

夜は巨大化して山を動き回り、昼はシカのような姿をしている。

 

夜の巨大化した姿は、デイダラボッチと言われている。

 

デイダラボッチとは、日本に昔から伝わる巨人の名前である(地域によって名称は異なる)。

 

関東地方や中部地方を中心に伝承される、山や湖を作った巨人・デイダラボッチ(=大太郎坊)は、諏訪地方では諏訪湖を埋めようとしたり、山をつくったはなしがある。

 

【諏訪のでいらぼっち伝説】 諏訪の民話や伝説

 

とちの木

国道20号富士見町のとちの木が書いてある道路標識

 

長野県富士見町に「もののけ姫」に関する地名があるのはジブリファンの間では割と有名であるが、「千と千尋の神隠し」のモデルとなった場所もあるようである。

 

主人公の千尋が乗る車が道を間違える交差点に、国道21号線「とちの木」と書いてある道路標識が出てくる。

 

絵コンテの中のコメントには「国道20号線をイメージ」と書いてある。

 

国道20号線の富士見町の道路案内標識にある「とちの木」の地名がモデルなのではと言われている。

 

「風立ちぬ」の富士見高原療養所

富士見高原ミュージアムの富士見高原療養所の写真

 

「風立ちぬ」といえば堀辰雄の小説を思い出すが、スタジオ・ジブリ作「風立ちぬ」は関東大震災の前後の日本を生きた堀越二郎という青年の半生を描いたものであり、その婚約者に小説「風立ちぬ」の主人公の婚約者・節子を重ねた物語である。

 

富士見町には、かつてサナトリウムと呼ばれる結核患者のための長期療養施設「富士見高原療養所」(現在は「富士見高原病院」)が置かれ、昭和初期に活躍した作家堀辰雄が自身の体験に基づいて書き上げた小説「風立ちぬ」の舞台として知られている。

 

結核というのは、昔は大流行し、国民病とまで言われるほど日本人の死因の上位を占めていた。

 

現在は結核予防ワクチンなどもあり、仮にかかっても抗生物質などもありますが、当時結核には有効な治療法がなく、空気の綺麗なところで栄養をしっかりとって安静にするという、大気安静療法が主な治療法でした。

 

映画ではヒロイン里見菜穂子が、みずから高原の療養所に入る事を決意し、その治療風景の場面がある。

 

山岳地帯の高度の高い療養所で、雪がちらつく屋外のバルコニーにベッドを並べ、芋虫のように厚着して寝袋にくるまっているという、今では考えられない治療方法が登場する。

 

藤森栄一と井戸尻遺跡

藤森栄一の書籍

 

「となりのトトロ」の主人公の父親「タツオ」のモデルとなったとされる考古学者については諸説ある。

 

「準備稿」では「若い考古学者。大学で非常勤講師をやりながら、翻訳の仕事で生活している。今は革命的な新学説の大論文を執筆中。縄文時代に農耕があったという仮説を立証しようと週2回の出勤以外は書斎にとじこもっている」となっている。

 

何人かの考古学者がモデルとしてあがる中で、在野の考古学者で「縄文農耕論」を訴えた藤森栄一(1911~1973)もその一人である。

 

井戸尻遺跡のことはこちらを参考にしてほしい。
【井戸尻遺跡】 高原の縄文大国~井戸尻文化の中心~

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