諏訪のでいらぼっち伝説
富士山と八ヶ岳
ずっと、ずっと昔のお話です。
大山祇神(おおやまづみのかみ)という山をお作りになる神様に、二人の娘がいました。
一人の娘には富士山を作って住まわせ、もう一人の娘には、浅間山を作って住ませようと、諏訪の土をごっそりと運びました。
そのために、諏訪の土地には、大きな穴があきました。
蓼科山は八ケ岳の妹の神様です。
手でなでたようになだらかで、やさしく美しい姿で、諏訪富士とも呼ばれる山でした。
ある時、富士山と八ヶ岳は、どちらが高いか背くらべの争いをはじめました。
解決策として神様は山の頂上にといをかけ、低い方に水が流れることで勝負させました。
水が流れたのは富士山でした。
負けた悔しさで、富士山は八ヶ岳を蹴飛ばしたとこえろ、八ヶ岳は八つに割れて富士山より低くなってしまいました。
昔の八というのは、多いという意味で使われる表現です。
現在の八ケ岳は八つの峰が、編笠山、西岳、権現岳、阿弥陀岳、赤岳、横岳、硫黄岳、天狗岳と言われ、主峰は赤岳になります。
蓼科山
蓼科山は、兄の八ケ岳が富士山に蹴飛ばされて八つに割れてからずうっと泣き通しでした。
まわりのものが、やさしく慰めましたが、慰められれば慰められるほど、なおいっそう大声を張り上げ泣くので、本当に始末に負えません。
「きれいなお兄ちゃんが、鋸の刃のように、ゴツゴツになっちゃたぁ。お兄ちゃんがかわいそうだよ。」
朝から夜まで泣きじゃくり、大きな蓼科山の両方の目からは涙が流れました。
涙は音を立てて蓼科山の裾を走り、一筋の川になり、そして、諏訪の土地のへこんだ所へどんどんと流れこみました。
蓼科山の涙は低いところで溜って、ついに諏訪湖になりました。
小泉山と大泉山
「でいらぼっち」という、とてつもない大男がいました。
背の高さは雲をつきぬけ、座ればお尻の下は、四キロ四方がすっぽりかくれ、ひと歩きの幅四キロという大男でした。
「でいらぼっち」は、おいおい泣く蓼科山がうるさくてたまりません。
「やいやい、えれぇことになったぞ。あんなとこに湖ができた。」
「泣くと諏訪湖に放り込むぞ。」と、蓼科山をかかえあげようとしましたが、あまりの重さに足が土の中にめり込んでしまいました。
その足跡が北八ケ岳の双子池になりました。
それでも「おれが、あの湖をうめてやるわぇ。」と大きな手で八ヶ岳を削りとって、土の山をひともっこ作りました。
また、二度三度軽くつかみ取ってもう一つの大きな山のような土の塊をつくりました。
ふたつの大きな土の塊をおんがら(麻の皮をはぎとった茎)で作ったもっこに山盛りにして、科(しな)の木の天秤棒で、「よいしょ、よいしょ」と担ぎ上げます。
そして、八ヶ岳の麓から諏訪湖を目指して、歩き出しました。
しばらく行った時でした、天秤棒が真ん中からポッキリ折れて、二つのもっこの土はどっすわりました。
代わりの天びん棒を作らなければなりません。
「やぁやぁ、いけねぇことした。」でいらぼっちは、変わりの木をもらいに神の原村へ行きましたがあいにくなかったので、しかたなく粟沢村へ行ってもらいました。
代わりの丈夫な天秤棒を持って、大慌てで引き返しもっこを担ぎ上げようとするのですが、もっこはびくともしません。
「こりゃ、おかしいぞ。」
肩にかけ直し、足をぐんと踏ん張って、何回もうなりましたがやはりだめです。
二つのもっこ山はすっかり地にひっつき小山になっていました。
しょうがないので、二つの山を粟沢村へくれて、すたこら歩いて、どこかへいってしまいました。
今でも諏訪の山浦地方に、少し間をあけて二つの山が並んでいる。
諏訪湖に近い方が、小泉山で、八ヶ岳に寄ったのが大泉山である。
でいらぼっち
さて、気の短いうえに、移り気な「でいらぼっち」は、今度は松本の方へ行こうとします。
塩尻峠をひとまたぎしようと、諏訪湖の中をじゃぶじゃぶと歩いて行きますと、急に足が、深みにはまって抜けなくなります。
びっくりし懸命に足を踏ん張り、ようやく抜いて、峠をまたぎました。
「でいらぼっち」ほどの巨人の足が、抜けなくなる深淵(ふかんぶち)を「底なし」と呼ぶようになりました。
また、高ボッチ高原のパンフレットには、一説には「でいらぼっち」と呼ばれる巨人が、腰を下ろしてひと休みしたところなので「高ボッチ」という不思議な名前の由来になったと記述がある。
塩尻市観光ガイド時めぐり 八ヶ岳中信高原国定公園 高ボッチ高原 塩尻ビギナーズガイド
「でいらぼっち」「でいだらぼっち」あるいは「だいだらぼっち」などと呼ばれる巨人伝説は主に関東・中部地方に多い伝承である。
その地方の山や湖を作ったと伝えられ、天地創造の巨神なのである。
諸説あり
出典 諏訪のでんせつ 竹村良信 著
1975年~1994年、TBS系列で放送されたTVアニメ「まんが日本昔ばなし」に「でいだらぼっちでいらん坊」として紹介されている